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事例6:アドビシステムズ

2011/10/25

事例6:アドビシステムズ CBU Product Management Web and Video

楽天初のスマートフォン向け総合アプリとして公開された 「楽天 gateway」 は、楽天のスマートフォン戦略の中でも重要な位置を占め、既にプリインストールされた端末も登場している。そこで、楽天 gateway のアイデアに至る過程を中心に、楽天のスマートフォンに対する施策を伺った。
今回取材に協力して頂いたのは、楽天編成部でモバイル戦略を担当する筈井さんと脇阪さんのお二人だ。

楽天 gateway

新しい投資、施策はスマホに集中

-- モバイル戦略課はどのような役割を担っているのでしょうか?

「楽天にはいろいろな事業部がありますが。グループ全体の横断的なクリエイティブやデザイン系を統括する組織としてグループ編成部があります。その中に、昨年 7 月にスマートフォン戦略の専任部隊として “スマートフォン戦略課” を立ち上げました。これは楽天グループ内の全事業部のスマートフォン戦略を統括する部門です。その後、昨年末からの Android プラットフォームの急速な普及を背景に、今年 4 月にはフィーチャーフォン担当グループを統合した “モバイル戦略課” として再編されました。楽天グループ全体の更なるモバイルデバイス対応を推進すべく活動しています」(筈井)

「フィーチャーフォンには 1 億以上の契約者がいる一方、スマホの普及台数はようやく 1 千万を越えたところです。現時点での市場規模としては、まだガラケーの方が一桁大きい訳です。一方で、携帯電話の売れ筋ランキング (BCN の週間ランキング) などを見ると、最近では新規購入者の約 8 割がスマートフォンです。今後もスマホの急速な普及が見込まれることや、新しい成長市場という戦略的な重要度から、新しい投資や施策はスマホに集中させようということで現在のチーム編成になりました。そのため、フィーチャーフォンに関しては、既存サービスの運用が業務の中心となっています」(筈井)

-- スマートフォン対応の具体的な事例について教えて頂けますか?確か昨年の夏頃から公開され始めたように思いますが。

「去年 iPhone や iPad が注目された頃に、各事業部が順次スマートフォン対応を始めました。2009 年に楽天市場が iPhone 対応を開始したのを皮切りに、トラベル、ブックスなど他の事業のサイトもスマートフォンに対応していきました。最初はトップページのみ最適化して、それから段階的に商品ページやショッピングカートの最適化を行いました。最適化が進むにつれて、離脱率が低下しコンバージョン率が上昇する傾向が見られました」(筈井)

「楽天ブックスの場合、去年の 5 月にトップや検索ページを iPhone 対応にしたところ、ページビューが約 40%、ユニークユーザー数が約 30% 増加しました。その後 7 月に商品ページとカートが対応したことで、コンバージョンレートが約 60%、レベニューが約 130% 増加しました」(脇阪)

楽天ブックスサイト

「最初は iPhone/iPad 対応から始めましたが、その後 Android にも順次対応範囲を進めています。今では最初から iOS と Android 両方を念頭において開発しています。ただ Android はバージョンによる違いが大きいためサポートが大変なので、対応基準を検討しています。例えば Android 1.6 でも最低限は見られるよう配慮しています。制作作業にはアドビの CS 製品を使用しています。CS5.5 になって HTML5 やモバイルデバイス向けの機能が充実したのは嬉しいです」(脇阪)

スマートフォンユーザーの要求レベルは上がっている

-- では、実際にスマートフォン専用サイトを提供したことで見えてきた問題があれば教えて頂けないでしょうか?

「スマートフォン対応サイトでは、楽天のサービス間の回遊性が確保できていませんでした。楽天スーパーポイントのように複数のサービスから使われるサービスや、市場とカードのように関連性の強いサービスがあります。PC 向けのサイトでは、ヘッダやフッタ、楽天 PointClub など、回遊の導線を設けていますが、スマートフォン向けのサイトでは、サービスごとにサイトが設計されていたため、公開当初は、サービス間の導線が確保できていませんでした」(筈井)

-- 確かにスマートフォン向けには、メインサイトの機能を単純化したサイトを提供するという傾向がありますね

「この件に関しては、昨年後半から、モバイル戦略課の企画により、各事業部と対応を進めています。例えば、グループ共通のヘッダやフッタに他の関連するサービスへの導線を追加しているところです」(脇阪)

(左)楽天市場 (右)PointClub

「スマートフォンでは、通常の PC サイトをピンチズームしながら使わないといけない状況だと、クリックして移動して貰ってもなかなか使ってもらえません。通常の PC サイトそのままでは、スマートフォンのタッチスクリーン上で快適に使うのは困難です。まずは、スマートフォンに最適化した画面を設計して、次にグループ間の導線を確保し、回遊性を上げ、楽天のサービスをできるだけ快適に利用して頂きたいと考えています。ユーザーはだんだんとスマホに最適化されたサイトに慣れてきていて、使い易さに対する要求レベルも上がっています。サイトのユーザビリティや回遊性の改善は、引き続き各事業部の知見を集めて、グループ全体の課題として取り組んでいきます」(筈井)

デスクトップ上に、統合されたサービスへの入り口を持つ重要性

「楽天の事業は多岐に渡っていて、各事業部からサービスごとに最適化されたアプリやサイトが提供されます。そのため、ユーザーから見ると、利用するサービスが増えるたびにインストールするアプリが増えたり、ブックマークが増えてしまう可能性があります。インストールやブックマークする手間もありますが、サービスを使う際、どのアプリを使えば良いのか、あるいはブラウザを開いてブックマークから探すのか、を毎回ユーザーが考えなければなりません。これは、アプリやサイトをそれぞれ改善するだけでは解決できない問題です」(脇阪)

-- そこで “楽天 gateway” が登場する訳ですね?

「楽天 gateway は、分断されているスマホアプリやサイトを入り口から統合しようという試みです。 楽天 gateway はアプリなので、デスクトップにアイコンが存在します。ユーザーは、いつでも同じアイコンをクリックすれば楽天 gateway の画面が表示されるので、そこからサイトでもアプリでも一発で目的のサービスにアクセスできます」(筈井)

楽天 gateway

「Android では、アプリを跨いだナビゲーションがスムースにできるようになっています。これを上手く使うと、単に他のアプリを起動するだけでなく、アプリ間をスムースに行き来することが可能になります。単純にユーザーを飛ばしてしまうのでは、また新たな回遊性の問題を作ることになってしまいます。そこで、ウェブやアプリといったサービス形態にとらわれず、モバイルデバイス上でサービスへの導線を提供できる仕組みを作ることを考えました」(脇阪)

-- Android 向けのみ提供なのはそのためでしょうか?

「現状では、Android にフォーカスしています。楽天 gateway を入り口としたサービス利用のあり方を確立していければと考えています」(筈井)

「スマートフォンでは、まだサービス提供方法の確立途上です。ウェブコンテンツもアプリも含めて網羅的により良いサービス利用を考えていきたいと考えています。アプリケーションについても、ネイティブやウェブアプリなどいくつかある選択肢の中で、サービスにあったソリューションを検討しているところです。Dreamwever CS5.5 は PhoneGap に対応して、アプリ開発もサポートするようになったので期待しています。これからも、スマートフォン向けのユーザビリティ改善、サービス間の回遊性の確保、楽天 gateway による導線の提供、と平行して改善を進めていきたいと思います」(脇阪)

  • 楽天株式会社 編成部
    モバイル戦略課 課長

    筈井 昌美

  • 楽天株式会社 編成部
    モバイル戦略課
    プロジェクトマネージャー

    脇阪 善則

楽天 編成部 モバイル戦略課

楽天グループ全体のスマートフォン領域における戦略策定、推進を行う。昨年 7 月、スマートフォン戦略の専任部隊 “スマートフォン戦略課” としてスタート、今年 4 月にフィーチャーフォン担当グループを統合した “モバイル戦略課” として再編。具体的には、グループのサービス改善推進、業界分析を通じた経営陣への戦略提言、グループ共通サービスの立上げ・運営というミッションを持つ。
楽天株式会社